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「協調性がない」だけでは解雇できない――協調性を欠く社員への 正しい対応を弁護士が解説

「周囲と連携せず、自分勝手な行動ばかりする社員がいる」「チームの輪を乱す言動に、他の従業員が疲弊している」「注意しても改善が見られず、解雇もやむを得ないかと考えているが、法的に問題ないだろうか」――協調性を欠く社員への対応に頭を悩ませている経営者・人事担当者の方は少なくありません。

協調性の欠如は、職場の雰囲気の悪化にとどまらず、業務効率の低下、他の従業員のモチベーション低下、人材流出や企業イメージの低下にもつながりかねない深刻な問題です。

しかし、「協調性がない」という理由だけで安易に解雇に踏み切ることには、法的に大きなリスクがあります。結論を先にお伝えすると、「協調性がない」という抽象的な評価それ自体は、解雇の理由としては極めて弱いのが実情です。

本記事では、なぜ「協調性がない」だけでは解雇が難しいのかを明らかにしたうえで、企業が取るべき段階的な対応と、解雇に至るまでの法的な注意点を、企業側(使用者側)の立場から解説します。

なぜ「協調性がない」だけでは解雇できないのか

そもそも解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利の濫用として無効になります(労働契約法16条)。日本の裁判所はこの有効性を厳格に判断しており、解雇のハードルは一般に高く設定されています。

ここで問題になるのが、「協調性がない」という言葉が抽象的な評価にすぎないという点です。裁判所が見るのは「協調性がない」というレッテルではなく、いつ・どこで・誰に対して・どのような言動があったのか、そしてそれが業務にどのような具体的支障を与えたのかという具体的な事実です。

抽象的な印象論のままでは、解雇を基礎づける「客観的に合理的な理由」とは認められません。

「協調性」という評価がはらむ3つの危うさ

協調性の欠如は、横領や無断欠勤のような客観的な規律違反とは性質が異なり、評価する側にも次のような落とし穴があります。裁判所はまさにこの点を精査します。

  • ① 主観性・相対性:「協調性」は評価者の主観や職場の人間関係に左右されやすく、誰の目から見た評価なのかが問われます。
  • ② 双方向性:対人関係の問題は一方だけの責任とは限りません。上司や周囲の対応、職場の体制側にも原因がある場合、裁判所は会社側の対応も含めて評価します。
  • ③ 口実化のリスク:実際には個人的な好き嫌い、正当な異論や内部通報への報復、性別・年齢・障害・思想などへの嫌悪が、「協調性がない」と言い換えられているだけのことがあります。こうした場合、解雇は無効となるだけでなく、不法行為として損害賠償責任を生じさせることもあります。

裁判例の傾向

協調性の欠如を理由として解雇した場合、裁判例は総じてその有効性を厳格に判断するでしょう。具体的には、抽象的な「協調性がない」という評価では足りず、具体的な問題行動が業務に重大な支障を与えていること、会社が指導・注意を繰り返し、配置転換などの解雇回避努力を尽くしたこと、それでもなお改善の見込みがないことまで求められる傾向があります。

逆に、改善の機会を十分に与えないままなされた解雇や、単発・偶発的な対立、個性の範囲にとどまる言動を理由とする解雇は、無効と判断されやすいといえます。とりわけ長期雇用を前提とする正社員については、改善の機会を与えたかどうかが重視されます。

つまり、協調性型の解雇を有効なものにできるかどうかは、「協調性がない」という抽象評価を、具体的な事実と具体的な指導の積み重ねへと「翻訳」できているかにかかっています。以下の段階的対応は、まさにその翻訳作業にほかなりません。

解雇理由として「弱い」評価と「基礎づけうる」事実の違い

解雇理由としては弱い(抽象的・主観的) 解雇を基礎づけうる(具体的・客観的)
「なんとなく職場の雰囲気を悪くする」「周囲となじまない」 業務指示を繰り返し無視し、報連相を怠った結果、具体的な手戻りや納期遅延を生じさせた
「性格がきつい」「言い方が悪い」 同僚への暴言・侮辱を繰り返し、複数名が体調不良や休職に至った
「上司と意見が対立することがある」 正当な理由なく会議や共同作業を拒否し、チームの業務が停止した
「他の社員から好かれていない」 取引先に非協力的な対応を重ね、現に取引が打ち切られた

協調性の欠如が引き起こす経営上のリスク

協調性のない社員を放置した場合、企業には次のようなリスクが生じます。

  • 職場環境の悪化:一方的なコミュニケーションや非協力的な態度により、チーム内の人間関係が悪化し、円滑な業務遂行が妨げられ、従業員の士気が低下します。
  • 生産性の低下・業務効率の阻害:連携不足や勝手な行動は全体の生産性を著しく下げます。報連相の不足によるミスや手戻り、他の従業員への過度な負担増が懸念されます。
  • 人材の流出:協調性のない社員の存在は他の従業員の大きなストレスとなり、優秀な人材ほど働きやすい環境を求めて離職するリスクが高まります。
  • 企業イメージ・信用の低下:顧客や取引先に横柄な態度をとったり連携を怠ったりすれば、対外的な信用を損ない、取引停止や契約解除を招くこともあります。

協調性を欠く社員への段階的対応プロセス

対応は感情的に行うのではなく、客観的な事実に基づき段階を踏んで進めます。前述のとおり、各ステップは「協調性がない」という抽象評価を、解雇を支えうる具体的な事実と指導の記録に変換する作業だと意識することが重要です。

STEP1 事実確認と客観的証拠の収集

まず、「協調性がない」とされる具体的な行動・言動を特定し、客観的な証拠を収集します。いつ・どこで・誰に対して・どのような言動があり、それが業務にどのような支障(遅延・ミス・他の従業員の負担増など)を与えたのか、頻度や継続性はどの程度か、を記録します。

  • 書面:業務日報、報告書、メールやビジネスチャットの記録、注意・指導記録、顧客・取引先からのクレーム報告書
  • 関係者のヒアリング:上司・同僚・部下など問題行動を現認した者からの聞き取り記録(日時・場所・内容・対象者名を明記)
  • その他:必要に応じ、本人の同意を得たうえでの面談記録(録音・録画)など

【法的注意点】 証拠収集にあたっては、プライバシーへの配慮など、手法の適法性・相当性に注意が必要です。

STEP2 指導・注意(面談の実施)

収集した事実に基づき本人と面談し、問題点を指摘して改善を促します。ここで決定的に重要なのは、「もっと協調性を持て」という抽象的な説諭で終わらせないことです。

「この場面ではこう報告・連携してほしい」「この言動は改めてほしい」と、改めるべき行動を具体的に特定して伝える必要があります。抽象的な注意では、後に「何を改善すべきか会社が明示しなかった」と評価され、解雇回避努力を尽くしたとは認められにくくなります。

  • 具体的な問題行動とその影響を、証拠に基づいて明確に伝える
  • 就業規則・服務規律や、チームで期待される行動を再確認させる
  • 一方的に叱責せず、本人の言い分にも耳を傾けたうえで、具体的な改善目標を設定する
  • 改善が見られない場合の次のステップ(再指導・配置転換・懲戒処分など)を予告しておく

面談記録の作成・保管:日時・場所・出席者・指摘した問題点・本人の弁明・指導内容・改善目標・次回予定を詳細に記録し、保管します。これがその後の対応における重要な証拠となります。

STEP3 改善が見られない場合の措置

一度の指導で改善が見られない場合も、すぐに解雇には向かわず、粘り強く対応を続けます。

  • 再度の指導・注意:改善状況を確認し、不十分なら再度面談を行い、その都度記録を残す
  • 配置転換(異動)の検討:現在の部署・業務とのミスマッチも考慮し、関わりの少ない部署や適性に合う業務への異動を検討する

【法的注意点】 配置転換は、業務上の必要性があり、不当な動機(嫌がらせ目的など)がなく、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えない範囲で行う必要があります。職種・勤務地限定の合意がある場合は本人の同意が必要です。

  • 研修の実施:コミュニケーション・チームワーク・ハラスメント防止などの研修受講を指示することも有効な場合があります

STEP4 懲戒処分の検討

度重なる指導や配置転換等を講じてもなお問題行動が改善されず、企業秩序を乱す状態が続く場合には、就業規則に基づく懲戒処分を検討します。問題行動の性質・程度・頻度、改善の見込み、他の従業員への影響などを総合的に考慮し、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格などの中から相当な処分を選びます。

  • 就業規則上の根拠:あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由が具体的に定められ、周知されていること
  • 適正手続:対象事実を告知し、本人に弁明の機会を与えること

【法的注意点】 懲戒処分も、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない場合は、権利の濫用として無効になります(労働契約法15条)。過去の指導歴や改善の経緯、他の従業員との均衡も考慮されます。また、同一の行為を二度処分すること(二重処分)はできません。

解雇の前に――退職勧奨・合意退職という現実的な選択肢

ここまで見てきたとおり、協調性の欠如を理由とする解雇は有効性のハードルが特に高く、訴訟リスクも小さくありません。そのため実務では、退職勧奨による合意退職が現実的な解決になることが少なくありません。会社と本人が合意のうえで退職するため、後の紛争リスクを大きく抑えられます。

もっとも、退職勧奨はあくまで本人の任意の意思を尊重して行う必要があります。執拗な説得、長時間・多人数での圧迫、威迫・侮辱、虚偽の説明などは、違法な退職強要として不法行為に基づく損害賠償の対象となり、また退職の意思表示自体が無効・取消しとなるおそれがあります。

  • 退職はあくまで任意である旨を前提に、冷静に話し合う
  • 退職金の上乗せ、有給休暇の消化、離職理由への配慮など、合意を促す条件を検討する
  • 面談内容を記録し、合意に至った場合は退職合意書を作成して条件を明確にする

最終手段としての解雇

あらゆる改善措置を尽くしてもなお問題行動が是正されず、雇用契約の継続が困難と判断される場合に、最終手段として解雇を検討します。解雇は従業員の生活基盤を奪う最も重い措置であり、その有効性は厳しく判断されます。

解雇の種類

  • 普通解雇:能力不足・勤務態度不良・適格性の欠如などを理由とする解雇。協調性の欠如が、他の従業員と協力して労務を提供するという労働契約の本旨に従った義務の履行を著しく困難にし、改善の見込みがない場合に検討されます。協調性型の解雇は、通常この普通解雇として争われます。
  • 懲戒解雇:重大な企業秩序違反に対する制裁としての最も重い解雇。協調性の欠如が、暴言・暴力、重大な業務妨害などの極めて悪質なレベルに達し、就業規則上の懲戒解雇事由に該当する場合に限られ、有効性は普通解雇よりさらに厳しく判断されます。

採用の経緯による違い なお、新卒採用など長期雇用を前提とする社員については、改善の機会を与えたかどうかがより強く問われ、解雇のハードルは高くなります。一方、特定の地位や能力を見込んで採用された中途採用者については、その適格性の欠如を理由とする解雇が比較的認められやすい傾向があります。

解雇の法的要件(解雇権濫用法理・労働契約法16条)

解雇が有効と認められるには、次の2要件をいずれも満たす必要があります。

  • 客観的に合理的な理由:協調性の欠如が具体的事実と客観的証拠(指導記録・メール・関係者の証言など)で裏付けられ、単なる個性の範囲を超えて義務の履行を著しく困難にする程度に達しており、かつ複数回の指導や配置転換など解雇回避努力を尽くしても改善が見られなかったこと
  • 社会通念上の相当性:問題行動の内容・程度・頻度、会社が被った具体的な支障、本人の反省や改善可能性、過去の勤務態度、他の従業員との処分の均衡、より軽い処分で対応する余地の有無などを総合し、解雇という手段がやむを得ない(重すぎない)と認められること

解雇の手続

  • 解雇予告(労働基準法20条):原則として解雇日の30日以上前に予告するか、30日分以上の解雇予告手当を支払う(懲戒解雇で労働基準監督署長の予告除外認定を受けた場合を除く)
  • 解雇理由証明書(労働基準法22条):従業員から請求があれば、解雇理由を記載した証明書を遅滞なく交付しなければならない

不当解雇のリスク

上記2要件を満たさない解雇は不当解雇として無効となります。労働審判や訴訟で解雇が無効と判断されれば、会社は従業員の復職を認め、解雇期間中の賃金(バックペイ)の支払いを命じられることがあります。

これは大きな経済的負担であると同時に、会社の評判にも悪影響を及ぼします。協調性型の解雇は、この不当解雇リスクが特に高い類型であることを、改めて意識しておく必要があります。

弁護士に相談する重要性

協調性を欠く社員への対応、特に懲戒処分や解雇を検討する際には、法的リスクを正確に評価し、適切な手続を踏むことが不可欠です。

相談すべきタイミングとしては、問題行動が繰り返され改善が見られない初期段階、指導や記録の残し方に迷ったとき、配置転換・懲戒処分を検討する段階、そして解雇を具体的に検討し始めた段階(ここでの相談が特に重要です)が挙げられます。

  • 法的リスクの評価と方針策定:処分や解雇の有効性の見通し、リスクを具体的に評価し、最適な対応方針を助言します
  • 証拠収集・書面作成の支援:有効な証拠の集め方や、注意書・懲戒処分通知書・解雇通知書などの作成を支援します
  • 適法な手続の確保・就業規則の整備:弁明の機会の付与や解雇予告などを確実に実行できるよう支援し、就業規則の不備も点検します
  • 交渉代理・紛争解決:従業員との交渉代理、労働審判・訴訟への対応を行います

まとめ

協調性を欠く社員への対応は、経営者にとって難しい問題です。しかし、改めて強調したいのは、「協調性がない」という抽象的な評価だけでは解雇は認められないということです。

重要なのは、感情的にならず、抽象的な印象を具体的な問題行動の記録と、具体的・特定的な改善指導へと積み上げていくことです。事実確認と証拠収集から始め、粘り強く指導を繰り返し、配置転換や研修など改善のためのあらゆる手段を尽くす――この過程の有無が、最終的な処分の有効性を左右します。

懲戒処分や解雇はあくまで最終手段であり、その手前には退職勧奨という現実的な選択肢もあります。対応に迷われた場合、あるいは懲戒処分や解雇を検討する際には、ぜひ早い段階で当事務所にご相談ください。早期の相談が、紛争を未然に防ぎ、貴社を守ることにつながります。

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