環境型セクシャルハラスメントとは?
職場におけるセクシャルハラスメント(セクハラ)は、大きく「対価型」と「環境型」の二種類に分かれます。
対価型が「性的な言動を拒否したら降格させられた」といった不利益と結びついたものであるのに対し、環境型セクハラは性的な言動によって職場環境そのものが害されるケースを指します。
厚生労働省の指針では、環境型セクシャルハラスメントを「労働者の意に反する性的な言動により就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じること」と定義しています(男女雇用機会均等法第11条に基づく指針)。
環境型セクハラの具体例
上司が頻繁に腰や胸などに触れるため就業意欲が低下している、同僚が取引先で性的な内容の情報を意図的に流布したため仕事が手につかない、事務所内にわいせつな画像が掲示されており見るたびに不快になるといった状況がこれにあたります。
また、性的な発言が繰り返される「発言型」や、過度なボディタッチが続く「身体接触型」も含まれます。
「嫌がっていなかった」という言い訳は成立しない
重要なポイントとして、被害者が明確に拒否の姿勢を示していなかった場合でも、環境型セクハラは成立します。
最高裁の判断でも、職場の人間関係の悪化を恐れて抗議や申告を差し控えるケースは多く、そのような事情を行為者に有利に考慮することは相当でないとされています。「嫌がっていなかった」という言い訳が通じない点を、経営者としてはしっかり認識しておく必要があります。
(最高裁H27.2.26)
この事案では、「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗、会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくない」と言及されています。
つまり、被害者は職場の雰囲気を悪くしないために、やむなく抵抗していない(同意しているように見える)可能性があるため、明白な拒否や抗議がないことをもって、安易に行為者に有利に判断すべきではないとされました。
環境型セクハラを放置するリスク
会社が負う法的責任
男女雇用機会均等法第11条は、事業主に対してセクハラを防止するための雇用管理上の措置を講じることを義務付けています。
セクハラへの対応を怠った場合、厚生労働大臣による行政指導や企業名の公表といった行政上の制裁を受ける可能性があります。
損害賠償請求のリスク
会社がセクハラを把握しながら適切な対応を取らなかった場合、被害を受けた従業員から損害賠償を請求されるリスクがあります。
使用者責任(民法715条)や安全配慮義務違反(労働契約法5条)を根拠に、会社が行為者と連帯して賠償責任を問われた裁判例も多くあります。
職場環境・採用への悪影響
セクハラが放置される職場では、被害者だけでなく周囲の従業員も不快感や不安を抱えながら働くことになります。
離職者の増加や求職者からの敬遠につながり、採用力の低下や職場全体の生産性悪化にも直結します。SNSや口コミサイトでの情報拡散リスクも無視できません。
解雇できる?
環境型セクハラを行った従業員を解雇したいというご相談はよく受けます。結論から言えば、行為の内容や程度によって対応が異なり、一律に解雇が認められるわけではありません。
懲戒解雇が認められやすいケース
強制わいせつなど刑法上の犯罪行為に該当するレベルのセクハラは、懲戒解雇の合理性・相当性が認められやすいとされています。
また、管理職が部下に対して繰り返しセクハラを行い、反省の姿勢が見られない場合も、従業員としての適格性を欠くとして解雇が有効とされた裁判例があります。
初犯・軽度では解雇が難しいことも
一方で、性的な発言のみのケースや、衣服越しの接触など比較的軽度の行為については、初犯の場合に直ちに懲戒解雇が有効とされるケースは多くありません。
裁判所は、行為の悪質性・反復性・役職・反省の有無などを総合的に判断します。重すぎる処分は労働契約法第15条により無効となるリスクがあり、行為者から逆に訴訟を起こされる事態も起こり得ます。
解雇の判断は事案ごとの見極めが非常に重要ですので、対応を検討する際には事前に弁護士へのご相談をおすすめします。
環境型セクハラをする社員への対応
行為の内容に応じた段階的な対応
セクハラへの対応は、行為の深刻さに応じて段階的に行うことが基本です。まず、比較的軽度の行為であれば、注意・指導を行い、研修への参加を求めることから始めます。
それでも改善されない場合や常習性がある場合には、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格といった懲戒処分へとステップアップします。
就業規則のセクハラ規定を確認する
懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則にセクハラを懲戒事由として明記しておく必要があります(最高裁昭和54年10月30日判決)。
就業規則にセクハラに関する規定がない、または規定が抽象的すぎる場合は、懲戒処分の有効性が認められないリスクがあります。これを機会に自社の規定を確認・整備することをおすすめします。
行為者にも弁明の機会を与える
懲戒処分を行う前には、行為者に対して弁明の機会を与えることが手続上必要です。
被害者の申告だけで処分を進めると、「適正手続きを踏んでいない」として処分が無効とされるリスクがあります。弁明の機会を与えた記録はきちんと残しておきましょう。
対応する際の注意点
被害者のプライバシーを守る
セクハラの相談を受けた際、被害者が最も恐れるのは「社内で噂になること」や「自分が不利な立場に置かれること」です。
調査過程で被害者の情報が広まったり、本人が望まない異動が行われたりすると、二次被害につながります。相談窓口の担当者には守秘義務を徹底させ、関係者以外への情報共有を避けることが必要です。
行為者と被害者を安易に引き合わせない
「当事者同士で話し合って解決してほしい」という対応は、被害者に大きな精神的負担を強いるうえ、ハラスメントの二次被害や問題の隠蔽につながるリスクがあります。
調査は会社として中立的な立場で行い、被害者と行為者が直接対面しなくて済む形で進めることが大切です。
「セクハラではない」と安易に判断しない
「本人が嫌がっている様子はなかった」「場の雰囲気でやったことだ」という弁明は、セクハラの成否に影響しません。被害者が内心では不快に感じていても、関係悪化を恐れて声に出せなかった可能性があるためです。
判断が難しい場合は、行為の客観的な内容と被害者の就業環境への影響から、専門家も交えて判断することをおすすめします。
対応の流れ
STEP1 相談・申告を受け付ける
まず、被害者から相談を受けたら、丁寧に内容を確認します。話しにくい状況であることに配慮しながら、いつ、どこで、誰が、何をしたのかについて具体的に把握します。
複数の被害者がいる可能性も念頭に置き、他にも同様の被害を受けた人がいないか確認することも大切です。
STEP2 事実関係を調査する
申告内容をもとに、行為者や第三者(目撃者等)から事情を聴取します。このとき、行為者には申告があったことを伝えますが、被害者が特定されないよう配慮した形での開示にとどめることが基本です。
メールのやり取りや目撃証言など、客観的な証拠も合わせて収集します。
STEP3 事実認定と処分の検討
調査で得た情報をもとに、セクハラに該当するかどうかを判断し、行為の内容・程度・反復性・役職・反省の有無などを考慮して、適切な懲戒処分の水準を検討します。
この段階で弁護士に相談し、処分の妥当性を確認しておくことで、後のトラブルを予防できます。
STEP4 処分と再発防止
処分が決まったら、就業規則の手続きに従って実施します。処分後は、被害者のフォローを行うとともに、全社的な研修の実施や相談窓口の周知など、再発防止に向けた取り組みを講じます。
「対応した」という事実と記録を残しておくことも、後日のトラブル対応に有効です。
弁護士に相談するメリット
処分の妥当性を事前に確認できる
「この処分で大丈夫か」という判断は、経営者だけでは非常に難しいものです。重すぎる処分は行為者から訴えられるリスクがあり、軽すぎる処分は被害者や他の従業員からの信頼を失います。
弁護士に事前相談することで、裁判例の傾向を踏まえた妥当な処分水準を確認でき、後のトラブルを防ぐことができます。
調査・ヒアリングの進め方をアドバイスしてもらえる
事実調査の手順に問題があると、それだけで処分が無効になるリスクがあります。
誰に・どの順番で・どのような形で聴取するか、弁明の機会はどう設けるかなど、手続き上の注意点について弁護士からアドバイスを受けることで、適正手続きを確保できます。
トラブルが生じた際の交渉・対応をまかせられる
行為者や被害者から会社に対して法的請求がなされた場合、弁護士が窓口となって交渉・対応を行います。
また、行政からの調査や指導が入った場合の対応も、早期に弁護士が関与することで適切に進めることができます。
問題社員対応に関するお悩みは当事務所にご相談ください
「セクハラの相談を受けたが、どこから手をつければよいかわからない」「行為者への処分を検討しているが、重すぎないか心配」「過去に対応したケースが正しかったか確認したい」といったお悩みをお持ちの経営者の方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
当事務所では、環境型セクハラをはじめとする職場のハラスメント問題について、事実調査の進め方から処分の検討、就業規則の整備、そして訴訟対応まで、一貫してサポートしています。
問題が大きくなる前に、早めにご相談いただくことをおすすめします。