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介護事業所が抑えるべき労務管理のポイントについて弁護士が解説

介護業でよくある労務トラブルとは?

介護業界の労務トラブルで最も多いのが、残業代の未払い問題です。人手不足が常態化しているため、職員が「利用者のためだから」という気持ちから始業前の準備や記録業務を時間外に行うことが日常化してしまいがちです。

本人の善意であっても、会社の指示のもとで行われた業務である以上、賃金を支払う義務があります。また、訪問介護における移動時間の扱い、夜勤の仮眠時間の取り扱い、送迎業務の時間管理など、介護業特有の論点でトラブルになるケースも少なくありません。

未払い残業代の請求権は現在3年間有効なため、退職した元職員から数年分をまとめて請求されるリスクも常に存在します。

こんな状況は要注意

以下のような状況が当てはまる場合は、労務トラブルのリスクが高い状態にあると考えてください。

  • 始業前の申し送りや清掃を給与に含めていない
  • タイムカードと実際の退勤時間にズレがある
  • 夜勤手当を支払っているが深夜割増の計算が合っていない
  • 主任・リーダーを管理監督者扱いにして残業代を払っていない(名ばかり管理職がいる)

就業規則について

作成・届出の義務

常時10人以上の労働者を雇用する事業場には、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。ここでいう「10人」には、パートやアルバイト、契約社員なども含まれます。

介護事業所はパートタイムスタッフが多いため、正社員が少なくても届出義務が生じているケースが多いので注意が必要です。

就業規則がないと運用できない制度がある

就業規則を整備していないと、法的に有効な形で導入できない制度があります。その代表が、介護業で特に重要な変形労働時間制です。シフト制で早番・遅番・夜勤が混在する介護現場では、1か月単位の変形労働時間制を活用することで残業代の発生を適切に管理できますが、この制度は就業規則(または労使協定)への明記がなければ法的に認められません。懲戒処分や配置転換の規定も同様です。

古い就業規則の放置にも注意

「以前に作ったきりで何年も見直していない」という事業所も多く見られます。労働関係の法律は定期的に改正されており、法改正に対応していない就業規則は実態と乖離してしまいます。

特にインターネットで取得したテンプレートをそのまま使っている場合は、自社の実情に合っているか改めて確認することをおすすめします。

労働時間の管理について

介護業における「労働時間」の落とし穴

労働時間の管理は、介護業において特に複雑な側面があります。例えば、訪問介護員が利用者宅間を移動する時間は労働時間にあたります。また、業務日報や介護記録の記入を終業後に行っている場合も、使用者の指示によるものであれば労働時間として扱われます。

始業前の制服への着替えも、職員に命じている場合は同様です。

夜勤・深夜帯の割増賃金

介護施設で夜勤が発生する場合、22時から翌5時までの時間帯は深夜割増(25%以上)の対象となります。「夜勤手当を支払っているから大丈夫」と考えていても、その手当額が法定の計算額を下回っている場合は差額を支払う必要があります。

また、法定休日の労働には35%以上の休日割増が必要で、深夜に重複した場合は合算(60%以上)となります。

客観的な記録の整備が会社を守る

労務トラブルに発展した際に事業所を守るのは、客観的な勤怠記録です。タイムカードやシステムによる打刻記録を適切に管理し、実態と乖離がないよう運用することが重要です。

LINEの履歴や入退室記録が職員側の証拠として使われた事例もあり、会社側に正確な記録がない状態での紛争は非常に不利になります。

休日・休暇について

法定休日と所定休日の違い

介護事業所では、法定休日と所定休日(会社が独自に定めた休日)を混同してしまうケースがあります。法定休日は労働基準法第35条で定める「週1回以上、または4週4日以上」の休日のことで、この日に労働させた場合は35%以上の休日割増が必要です。

一方、法定外の休日(例えば週休2日制の土曜日)に出勤した場合は、時間外労働として25%以上の割増になります。就業規則でどの日を法定休日と定めているかが重要なポイントです。

振替休日と代休のどちらを使っているか

「休日出勤させた代わりに別の日に休ませる」という対応を取る際、振替休日と代休では賃金の扱いが異なります。振替休日は事前に休日を別の日に変更するもので、適切に行えば割増賃金は発生しません。

一方、代休は休日出勤後に事後的に休日を与えるものであり、この場合は休日割増分の賃金支払が必要です。実態として「代休扱い」にしているにもかかわらず割増賃金を支払っていない事業所が多く見られます。

年次有給休暇の5日取得義務

2019年4月以降、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、年5日の有給取得を使用者が確実に取得させることが義務付けられています。パートや契約社員にも適用され、義務を果たせなかった場合は1名につき30万円以下の罰金が課される可能性があります。

シフト制で人員調整が難しい介護現場では特に管理が難しく、年次有給休暇管理簿を整備して計画的に取得を促す仕組みを作ることが求められます。

労務管理において意識すべきこと

「問題が起きてから」では手遅れになる

残業代請求は時効が3年あるため、現在の労務管理に問題があれば、数年分が一気に請求されるリスクがあります。複数の職員が同時に請求してきたり、退職後に弁護士を立てて交渉してきたりするケースも実際に起きています。

罰金や付加金が課されることもあり、企業名が公表されれば求人への影響も避けられません。日頃から「問題があれば対処できる」状態を作っておくことが重要です。

法改正への対応を継続的に行う

労働関係法令は定期的に改正されます。例えば、2023年4月には月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金の適用が中小企業にも拡大され、2024年4月には一部業種への上限規制が開始されました。

介護事業所の経営者としては、こうした法改正の動向を把握し、就業規則や賃金規程を適時見直すことが必要です。

記録と周知を徹底する

就業規則や労使協定の内容を整備しても、従業員に周知されていなければ効力が生じないケースがあります。就業規則は全職員が確認できる形で掲示・備え付けることが法律上求められています。

また、勤怠記録・賃金台帳・有給休暇管理簿などの書類は適切に保存しておくことで、万一のトラブル時に事業所を守る証拠になります。

弁護士・社労士へのアウトソーシング

専門家が担える領域

労務管理に関する業務は多岐にわたり、経営者が全てを把握・対応することは現実的に難しいものです。社労士は就業規則の作成・変更、給与計算のチェック、社会保険手続きなどの実務サポートを得意としています。

一方、弁護士は職員から未払い賃金を請求された場合の交渉・訴訟対応、行政調査への対応、就業規則の法的リスクのチェックなど、紛争対応や法的観点からのアドバイスを担います。

顧問契約でリスクを事前に管理する

労務トラブルは「起きてから相談する」よりも「起きないよう備える」ことにコストをかけた方が、長期的には経営上のメリットが大きいです。弁護士や社労士と顧問契約を結ぶことで、制度変更時の確認や日常的な相談を気軽に行える環境を整えることができます。

特に、法的な観点からの就業規則のチェックや、グレーゾーンの判断は専門家に任せるのが安心です。

労務管理については当事務所にご相談ください

「就業規則を整備したいが何から手をつければよいかわからない」「職員から残業代を請求されてしまった」「夜勤や変形労働時間制の管理が実態に合っているか不安」など、介護事業所の労務に関するご不安はさまざまかと思います。

当事務所では、社会保険労務士の資格も持つ弁護士が、就業規則の整備から労務トラブルの解決まで、一体的にサポートしています。介護業界特有の労務問題についても経験があり、現場の実情に寄り添ったアドバイスを提供できます。まずはお気軽にご相談ください。

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