ローパフォーマンス社員への対応と解雇の法的ポイント
「期待される成果をなかなか出してくれない社員がいる」「何度指導しても改善が見られず、周囲の社員の士気にも影響が出ている」「ローパフォーマンスを理由に、問題のある社員に辞めてもらうことはできないだろうか…」
このような、パフォーマンスが低い社員(ローパフォーマンス社員)への対応に頭を悩ませている経営者や人事担当者の方は、決して少なくありません。
しかし、だからといって「仕事ができない」「期待に応えてくれない」といった理由で安易に解雇に踏み切ることは、法的に極めて高いリスクを伴います。後々、「不当解雇」として訴訟に発展し、企業が多大な時間的・経済的損失を被る可能性も否定できません。
この記事では、ローパフォーマンス社員への対応について、「解雇はどのような場合に可能なのか」「解雇に至るまでに企業が取るべき適切な手順」「トラブルを避けるための注意点」「弁護士に相談するメリット」などを法的な観点から詳しく解説します。
「ローパフォーマンス」とは何を指すのか
まず、「ローパフォーマンス」とは何をもってそういうことができるのでしょうか。単なる主観的な「使えない」という評価ではなく、法的な対応、特に解雇を検討する際には、より分析的な観点で評価をする必要があります。
法的な対応を検討する場面においてのローパフォーマンスとは、「従業員の職務遂行能力や勤務成績が著しく低く、労働契約上通常期待されるレベルの職務を、相当期間にわたり継続的に達成できていない状態」を指すと考えます。
具体的には、以下のような類型が考えられます。
- 能力不足:業務遂行に必要な知識、スキル、経験、あるいは適性が著しく欠けており、通常の教育や指導を行っても期待される水準の業務を遂行できない。
- 成績不良:営業目標の未達、生産性の著しい低さなど、客観的な指標で示される業務成績が、合理的な理由なく継続的に他の従業員と比較して著しく劣る状態が続いている。
- 勤務態度不良(職務怠慢に起因するもの):繰り返される遅刻、無断欠勤、業務時間中の頻繁な私用、指示された業務の懈怠や拒否など、職務遂行意欲の欠如が原因で著しくパフォーマンスが低い状態。
なお、病気や家庭の事情などによる一時的なパフォーマンス低下と、恒常的な能力不足・意欲不足は区別する必要があります。また、上司の主観や感情的な評価ではなく、具体的な業務上のミス、成績データ、勤怠記録といった客観的な事実に基づいて判断することが重要です。
ローパフォーマンスを理由とする解雇の法的ハードル
結論から申し上げると、ローパフォーマンスのみを理由に従業員を解雇することは、法的に非常に難しいと言えます。
日本の労働契約法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています(解雇権濫用法理)。
ローパフォーマンスを理由とする解雇が法的に有効と認められるためには、以下の観点をすべて満たす必要があります。
- ローパフォーマンスの程度が「労働契約の本旨に従った労務の提供」ができていない重大なレベルに達していること
- 公平かつ客観的な評価制度や基準が存在し、その記録が残っていること
- 明確な改善目標を設定した上で、相当な期間にわたり繰り返し具体的な指導・教育・研修の機会を与えた実績があること
- 他の部署や職務への配置転換など、解雇回避努力を行ったこと
- あらゆる手段を尽くしても改善の見込みがなく、解雇が最終手段としてやむを得ないと判断されること
これらの観点から不十分な要素があった場合には、企業側が「これ以上雇い続けるのは無理だ」と感じていても、裁判等で不当解雇と判断されるリスクがあります。不当解雇と判断された場合、解雇の撤回(復職)や、解雇期間中の賃金(バックペイ)の支払いを命じられる可能性があります。
ローパフォーマンス社員への段階的対応プロセス
解雇という最終手段に至る前に、企業としては、対象社員の改善を促し、同時に解雇の有効性を担保するために、以下の段階的なプロセスを慎重に進めることが重要です。
STEP1 事実確認と客観的評価
「パフォーマンスが低い」と感じる具体的な事実(例:〇月の報告書で〇件の重大なミス、〇期連続で営業目標達成率〇%未満など)を客観的に記録します。
就業規則や人事評価制度に基づき、公平な基準でパフォーマンスを評価し、その結果を記録として残します。評価者による主観や偏見が入らないように注意が必要です。
STEP2 面談によるフィードバックと改善指導(初期)
評価結果に基づき対象社員と面談を実施し、具体的な問題点(事実ベース)を明確に伝え、期待される水準とのギャップを認識させます。一方的に叱責するのではなく、社員自身の考えや言い分にも耳を傾け、原因を探ります。
具体的な改善目標(達成可能かつ測定可能なもの)と達成のための期間を設定し、会社としてどのような支援(研修の実施、OJTの強化など)を行うかを伝え、実行します。
面談の日時、場所、出席者、指摘した問題点、社員の弁明、設定した目標、指導内容などを詳細に記録し、可能であれば社員のサインももらっておくと良いでしょう。
STEP3 経過観察と継続的な指導・支援
設定した期間、改善目標の達成度合いを定期的に(例:毎月)確認し、フィードバックを行います。改善が見られない、あるいは不十分な場合は、再度面談を行い問題点や原因を深掘りし、必要に応じて目標の再設定や追加の指導・教育を実施します。
この間の指導内容、社員の反応、改善の進捗状況なども、都度記録に残します。
STEP4 配置転換・職務変更の検討・実施
相当期間にわたり指導・支援を尽くしても改善が見込めない場合、他の部署や職務への配置転換が可能か真剣に検討します。適性がありそうな部署があれば本人に打診し、同意が得られれば実施します。
適切な異動先がない、本人が合理的な理由なく拒否するなどの理由で配置転換が実施できない場合は、その経緯と理由を記録に残します。
STEP5 改善勧告
配置転換等の解雇回避努力を行ってもなお改善されず、客観的に見て雇用契約の継続が困難であると判断される段階に至った場合、最終的な改善勧告を行います。
この書面には、これまでの具体的な問題点、実施してきた指導・配置転換等の経緯、最終的な改善目標と達成期限、「この期限までに改善が見られない場合は、解雇を含む雇用契約の終了も検討せざるを得ない」旨を明確に記載します。この最終警告に対しても、本人に弁明の機会を与えることが望ましいです。
STEP6 退職勧奨、解雇の最終判断と実行
最終警告書で定めた期限が到来しても全く改善が見られない場合に、解雇を最終的に判断します。ただし、解雇を実施して紛争になった場合会社は高いリスクを負うことになるため、解雇の最終判断に至る前に退職勧奨を実施することも目指すべきです。
この段階で、再度、解雇権濫用に該当しないかをこれまでのプロセス全体の記録に基づいて慎重に検討します。弁護士への相談が特に推奨されるタイミングです。解雇を決定した場合には、原則として30日以上前に解雇予告を行うか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払います。
なぜ「記録」がすべての鍵になるのか
ここまで説明してきた段階的対応プロセスの随所に「記録に残す」という要素が登場してきました。これは決して形式的な作業ではありません。ローパフォーマンス社員への対応において、記録は企業を守るための最も重要な「証拠」となります。
解雇の法的有効性を裏付ける唯一の根拠となる:裁判や労働審判において、「十分な指導を行ったか」「改善の機会を与えたか」「解雇回避努力を尽くしたか」を判断するのは、口頭の主張ではなく客観的な記録です。指導の日時・内容・社員の反応などの文書が残っているか否かが、解雇の有効・無効を左右する決定的な要素となります。
主観と事実を切り分ける手段になる:日付・具体的な事実・業績数値などを都度記録する習慣が、評価の客観性・公平性を担保し、後日「あの上司は感情で判断していた」と主張されるリスクを防ぎます。
社員本人への抑止力・動機づけとして機能する:面談内容や指導結果を書面で共有し、可能であれば本人のサインを求めることで、「言った・言わない」の水掛け論を防げます。また、自分の状況が記録されていることを本人が認識することで、改善への意識が高まる効果も期待できます。
弁護士への相談をより実効的にする:弁護士が解雇の法的リスクを正確に評価するためには、これまでの対応の経緯を把握する必要があります。記録が整理されているほど、弁護士はより的確なアドバイスを短時間で提供することができます。
記録は、「問題が起きてから慌てて作るもの」ではありません。問題の芽が見えた瞬間から、日常業務の一部として継続的につけ続けることが重要です。
弁護士への相談の重要性
ローパフォーマンス社員への対応、特に解雇を視野に入れる場合は、法的リスクが非常に高く、手続きも複雑です。専門家である弁護士への相談は、適切な対応とリスク回避のために不可欠と言えます。
相談すべきタイミングは、ローパフォーマンスが問題として認識され始めた初期段階から、改善指導の継続中、配置転換や最終警告を具体的に検討する段階、そして解雇を最終的に決断する前(必須)です。
弁護士に依頼することで、解雇の法的有効性の的確な評価、適切な対応プロセスの設計・実行支援、証拠の有効性の確認と収集サポート、必要書類の作成支援、紛争発生時の代理交渉・訴訟対応など、幅広いサポートを受けられます。
弁護士費用は発生しますが、不当解雇による訴訟リスクやバックペイ等の潜在的な損失と比較すれば、専門家への相談・依頼は、結果的に企業を守るための有効な投資となるケースが多いです。
まとめ
ローパフォーマンス社員への対応は、非常にデリケートな課題です。感情的な判断や不適切な手続きによる安易な解雇は、「不当解雇」として法的な紛争を招き、企業の評判や経営に深刻なダメージを与えかねません。
重要なのは、解雇という最終手段に至る前に、①客観的な評価に基づき、②十分な改善指導・教育の機会を与え、③配置転換等の解雇回避努力を尽くし、④そのプロセスを詳細に記録として残すことです。
ローパフォーマンス社員への対応方法に迷う場合、あるいは解雇を具体的に検討せざるを得ない状況になった場合は、労働問題に精通した弁護士にご相談ください。早期にご相談いただくことで、取りうる選択肢が増え、法的リスクを最小限に抑えた適切な解決策を見出すことが可能になります。
当事務所では、ローパフォーマンス社員への対応に関する企業様からのご相談を多数お受けしております。お困りの際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。