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モンスターペイシェント対策の基本|医療現場を法的リスクから守るためのポイント

病院やクリニックの経営において、現在多くの医療従事者を悩ませているのが「モンスターペイシェント」への対応です。理不尽な要求や暴言を繰り返す患者への対応は、スタッフを精神的に疲弊させるだけでなく、本来の診療業務に重大な支障をきたします 。
本記事では、医療機関の顧問弁護士も務める筆者が、モンスターペイシェントの定義や応召義務の法的解釈、そして現場を守るための実務的な対応策について解説します。

モンスターペイシェントとは

「モンスターペイシェント」という言葉自体に法的定義はありません。一般的には医療従事者に対して不当な要求や言動を行い、業務を妨害する患者やその家族を指してそう呼ばれることが多いでしょう。

定義を内部で決めておくと現場が判断しやすい

定義付けを厳格にする必要はあまりないかもしれませんが、厚生労働省はカスタマーハラスメント対策マニュアルにて「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の定義をしており参考になります。「これはモンスターペイシェント(カスハラ)だ」と内部で決めておくと、現場において、次のステップ(対応)へ移る判断がしやすくなります。

行為の分類

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを「顧客等からのクレームのうち、主張内容に正当性がないもの、または主張内容に正当性があっても解決手段として社会通念上不相当なもの」としています 。医療現場では以下のような状況が該当します。厚生労働省の定義をベースに、いくつか、医療現場におけるモンスターペイシェントのケースをあげてみます。

主張内容に問題があるもの(正当性がない要求)

〇 不当な診療要求: 医学的に不要な検査や、特定の薬剤の処方を執拗に求める 。

〇 不当な謝罪・金銭要求: 医療機関側に落ち度がない、あるいは軽微なミスに対して、過度な謝罪や慰謝料を要求する 。

〇 医療費の不払い: 正当な理由なく診療報酬の支払いを拒否する 。

主張方法に問題があるもの(不相当な手段)

○ 暴言・怒鳴り声: 待ち時間への不満などから、受付や診察室で大声を出し、他の患者に迷惑をかける 。

○ 暴力・威嚇: 医療スタッフを殴る、あるいは物を壊すなどの物理的な攻撃 。

○ 拘束・居座り: 説明に納得しないとして何時間も診察室に居座り、退去を求めても応じない 。

○ セクシャルハラスメント: 看護師等に対し、性的な言動を行ったり身体に触れたりする 。

医師法上の「応召義務」と診療拒否の正当性

モンスターペイシェントへの対応で、医療機関が最も懸念するのは医師法第19条1項の「応召義務」です 。しかし、現在はこの義務は無限定なものではないという公的な指針が示されています。

厚生労働省による指針(令和元年通知)

厚生労働省は、「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(令和元年12月25日 医政発1225第4号)において、診療を拒否できる「正当な事由」を具体化しました 。 この通知では、「患者と医療機関・医師等の信頼関係」が重要な考慮要素とされており、著しい迷惑行為がある場合には診療を拒否することが正当化されると示されています 。

診療拒否を認めた具体的な裁判例

裁判所も、信頼関係が破壊されている場合には、病院側の診療拒否や義務の否定を認めています。
● 診療・説明義務を否定(東京地裁 平成26年5月12日判決) 過去に受けた手術等に関し、大声で不満を述べたり、暴言を吐いたり、 同手術の説明や謝罪を要求した患者に対し、裁判所は「適切な医療行為のために必要な患者との信頼関係が破壊されている」として、診療義務や説明義務がないことを認めました 。

● 指示不服従と退去拒否(東京地裁 平成25年5月31日判決) 病院からの説明に従わず、診療室からの退去を拒否して警察官が臨場する事態を繰り返したケースで、治療拒否の正当な理由を認めました 。

実務的な対応のポイント

毅然とした対応をとる

モンスターペイシェントであると認定した場合は、毅然とした対応をとることが大切です。きっぱりと、対応できない・要求にはこたえないというメッセージを明確に伝えましょう。

組織的対応をとる

1人で対応させることは、その人に多大な負担をかけます。複数で対応できるよう心掛けましょう。また、人が変わると相手の態度が変わります。モンスターペイシェント認定をした後は、最初に対応したスタッフとは別の人が対応するのが望ましいです。

詳細な記録(証拠)化

トラブル対応の基本としてどんなケースにもあてはまることですが、いつ、誰が、どのような言動をしたかを時系列で詳細にメモ(電子カルテ等)に残し、対応の足跡をのこすことは重要です 。録音や防犯カメラの映像も、後日の法的対応や警察への相談において極めて重要な証拠となります 。

弁護士によるサポートが適切なケース

現場のスタッフだけで解決を図ろうとすると、精神的な疲弊から離職を招くリスクがあります 。以下のような状況では、速やかに弁護士へ介入を依頼すべきです。

● 交渉窓口の代行(介入) 弁護士が窓口となることで、患者が病院へ直接連絡することを遮断でき、スタッフは本来の診療業務に専念できます 。

● 法的な拒絶と警告 弁護士名義の内容証明郵便による警告を行うことで、不当な要求を制止し、問題の鎮静化を図ります 。

● 説明の場への同席 病院側に何らかのミスがあった場合の謝罪や説明の場に同席し、感情的な対立を抑えて法的に適正な解決へ導きます 。

● 未払い診療報酬の回収 正当な理由無く、難癖をつけて支払いを拒む患者に対し、法的な手続きによって回収を代行します 。

弁護士へのご相談について

モンスターペイシェントへの対応を現場の我慢に頼ることは、安全配慮義務の観点からも望ましくありません 。
当事務所では、医療現場の実情を理解した弁護士が、クレーム対応の代行から院内ルールの整備、スタッフ向け研修まで包括的にサポートいたします。
「対応が困難な患者がいてスタッフが困っている」「応召義務違反と言われるのが不安で診療を断れない」といったお悩みをお持ちの方は、問題が深刻化する前にぜひ一度ご相談ください。貴院の大切なスタッフと医療経営を守るための、最適な解決策をご提案いたします。

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