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未払残業代リスクを回避するには?介護事業者が見直すべき「夜勤手当」「労働時間」とは?

人事・労務課題の構造的な現状と潜在的な未払賃金リスク

介護労働におけるサービス残業の実態について、ある調査によると、施設介護労働者の4人に1人がサービス残業を行っているという結果が出ています。また、別の調査では、介護労働者の労働条件・仕事の負担に関する悩み・不満として、人手不足が第1位にあげられています(令和6年介護労働実態調査)。人手不足は、構造的にサービス残業を発生させる要因といえます。
先にあげた令和6年介護労働実態調査の悩み・不満の第2位は、「仕事内容のわりに賃金が低い」という回答です(令和6年介護労働実態調査)。賃金への不満は、未払残業代が発生するなら請求しておこう、という動きにもつながりやすいものであり、決して無視できない潜在的なリスクがあるといえます。

労働基準法(労基法)に基づき、原則として、1日8時間、1週間40時間を超える労働に対しては割増賃金(残業代)を支払う義務があります。残業代を支払わないサービス残業は、法律違反となってしまいます。

本コラムでは、介護事業所が抱える日常的なサービス残業の類型と、特にリスクが高い「夜勤の仮眠時間」、そして「定額の夜勤手当」の法的論点に焦点を当て、経営リスクを回避するための具体的な対策を解説します。

介護事業所が直面する残業代リスク

介護事業所において残業代が発生しやすい場面をいくつかあげてみます。

始業前の活動

勤務時間前の着替え(ユニフォーム着用が義務の場合、業務時間に含まれます)、朝礼への参加等。これらの時間は、指揮監督命令下にあるといえるため、労働時間に入ります。したがって、これらの時間を労働時間としてカウントしていないと、未払残業代が発生します。

 

強制される時間外活動(業務外と認識しがちな業務)

勤務時間外のミーティング、参加が義務付けられた研修・勉強会など。これらは、事業所が参加を義務付けている以上、業務の一環であり、残業代の支払いが必要です。

業務の持越し

勤務時間外の介護記録の記入や申し送り、退勤時間後の利用者さんやご家族の対応。これらの業務が行われた時間にはすべて賃金支払い義務が生じます。

労働時間管理の問題(切捨て計算)

介護事業に限った話ではありませんが、労働時間は1分単位で計算せねばなりません。残業時間の端数について、1日の集計ごとに、15分や30分で切り捨てることは違法であり、未払残業代が発生します。

夜勤の「仮眠時間」はどう扱われる?

夜勤体制における「仮眠時間」の取り扱いは、最も高額な未払賃金リスクを抱える論点です。
「仮眠時間」が労働時間となる基準とは?
労基法上の「労働時間」は、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれているか否か」という実態で判断されます。仮眠時間であっても、コールへの即時対応が義務づけられたり、定時巡回義務がある場合、職員は指揮命令下に置かれているとして、夜勤の勤務時間全体が労働時間にあたると判断される可能性があります。

「夜勤手当」の危険性

また、夜勤において、例えば「夜勤手当」として一定の額をを支払っている場合、それが深夜労働や時間外労働の割増賃金の支払として扱われるか、問題になります。
ある社会福祉法人の事案(東京高裁 令和6年7月4日)では、定額手当が割増賃金として認められるためには、「通常の労働時間の賃金にあたる部分」と「割増賃金にあたる部分」とが明確に区分できることが必要だと示し、当該手当の支払を割増賃金の支払として認めませんでした。

夜勤の勤務時間全体が労働時間にあたるとされ、夜勤手当が割増賃金の支払として扱われないとなると、どうなるか

仮眠時間も労働時間と認定され定額手当が割増賃金の支払として無効とされた場合、基本給を基に夜勤全体を労働時間として再計算され、結果として、多額の未払残業代、遅延損害金、付加金(賃金を支払わないことに対する制裁金)の支払いが命じられるという深刻な経営リスクにつながります。

リスク回避策

労働時間の管理

労働時間を管理すれば残業代の請求が無くなるわけではありません。そういった意味で即効性はありませんが、労働時間を1分単位で管理し、曖昧さをなるべく残さず、業務と捉えるべきについては、労働時間内に組み込んでしまう。こういった労働時間の管理を徹底することで、残業代発生のリスクを減少させられます。

賃金設定の明確化

みなし残業代の支払いにも共通しますが、「これは労働の対価である」ということを明示しないと、賃金の支払として認められない可能性が高くなります。
そこで、例えば、夜勤手当については、就業規則や労働契約において、趣旨と内容を明確に記載し、夜勤に対する賃金であることを明示することにより、残業代発生のリスクを減らすことが可能になります。

弁護士への相談はリスク低減へのショートカット

未払残業代の請求は、退職した職員からも提起されることが多く、請求額は過去数年分に及びます。一度訴訟に発展すれば、多額の支払いだけでなく、社会的な信用失墜、優秀な人材の離職、そして何より煩雑な裁判対応という重い負担が経営者を直撃します。

専門家である弁護士に相談する3つのメリット

リスクの正確な診断と法的な仕組みの構築

弁護士は、就業規則、賃金規定、実際の勤務実態を法的な観点から精査し、未払残業代リスクを正確に診断できます。これに基づき、賃金規程の改定など、リスクを根本的に除去する法的な仕組みを構築します。

防御体制の確立(訴訟対応)

従業員からの残業代請求に対し、弁護士は労働時間の記録確認や合意内容の精査を通じて、事業者側が法的に適切な防御を構築できるよう支援します。

コストを上回る事業継続性の確保

労務問題の早期解決と予防は、結果として職員の職場定着につながり、採用コストや教育コストの削減という形で長期的な経済的利益をもたらします。未払賃金と訴訟リスクを抱え続けるよりも、初期の投資で安定した経営基盤を築く方が、遥かに合理的で経済的な選択であるともいえます。

事業の安定と持続的な発展を確実にするために、労務に精通した弁護士の知見を借りることは、経営者にとって必要なリスクマネジメントです。
介護事業に従事する皆様におかれましては、御社の労務リスクを診断し、適切な対策を講じるために、お気軽に弁護士へご相談ください。

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