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介護業における問題社員対応とは?弁護士が解説

問題社員とは

ここでいう「問題社員」とは、従業員との間や、対利用者との関係でトラブルを起こすような職員のことします。

介護業でみられる問題社員のケースとしては、以下のような類型があるかと思います。

不適切なサービス提供

利用者への対応がいい加減である、対応が横柄であるなどにより、利用者や利用者家族からクレームが多く寄せられている。

職務怠慢

行うべき報告を行わない、利用者の送迎やその他サービス提供を十分に行わないなど。

勤務態度不良

無断欠勤や遅刻、早退が多い。組織内のルールに従わない

チームワークを乱す

適切な申し送りを行わない、他の従業員とすぐ口論になったり、過剰に責めたりする。

対応を放置してはいけません

職場の雰囲気や、利用者の評判を悪くする

問題社員の対応に手をこまねいて手を打たないのは、よくありません。他の職員の士気に関わりますし、施設の評価にも関わります。「あの人とは働きたくない」と他の従業員から声が上がったり、利用者からのクレームがあった場合には、適切な対処が必要です。

法律的なリスク

問題行為の程度が悪質・重大化すると、法律的な紛争を抱える事になります。
 例えば、パワハラ絡みの従業員間トラブルとなれば、会社の対応如何では被害に遭った従業員から損害賠償請求をされるリスクがあります。
 実際に、介護施設において、上司が部下に対し「トイレブラシをなめるよう指示し、実際になめさせた」などのパワーハラスメント行為が認定され、施設及び上司に対して損害賠償(慰謝料等)の支払いが命じられた裁判例(福岡地裁 令和元年9月10日判決)があります。
また、職員間のセクハラ被害の申告に対し、会社が十分な調査や適切な措置を講じなかった(安全配慮義務違反)として、会社に対して損害賠償の支払いが命じられた裁判例(大阪地裁 平成21年10月16日判決)もあり、問題を把握した後の事業者の対応が極めて重要となります。
また、不適切なサービス提供により利用者が損害を被ったとなれば、これも、損害賠償請求のリスクを負うことになります。
 さらに言えば、問題社員への対応を誤り、例えば、即日に懲戒解雇処分に踏み切るなどした場合、当該職員と労務紛争を抱える事になりかねません。懲戒解雇は、労働者に対する最も重い処分であり、その有効性は裁判所で厳しく判断されます。問題行為があったとしても、即座の解雇が常に認められるわけではないのです。

適切な対応が必要です

これらのリスクを回避するためにも、問題社員には毅然とした適切な対応が求められます。

問題社員への適切な対応とは

問題社員への対応は、適切、かつ、場合によっては速やかな対応が求められます。感情的に対応するのではなく、以下のステップを冷静に進めることが重要です。

事実関係の把握と資料収集

まずは、何が起きているのかを客観的に把握することが第一歩です。
関係者(被害を訴える利用者・家族、同僚職員など)からのヒアリングを中立的な立場で行い、いつ、どこで、誰が、何を、どのようにしたのか(5W1H)を具体的に聴取し、必ず記録(ヒアリングメモ、日時、聴取者名を明記)に残します。クレーム書面、介護記録、防犯カメラの映像、メールやチャットの履歴など、客観的な証拠があれば必ず確保してください。

指導、注意の実施

事実関係が確認できたら、当該職員に対して指導・注意を行います。最初は口頭での注意でも構いませんが、改善が見られない場合や、問題が重大である場合は、必ず書面(「指導書」「注意書」など)を交付します。
書面には、以下の点を明記します。

客観的に確認された問題行為(事実)
それにより生じている問題(業務への支障、利用者からのクレームなど)
具体的な改善指示(何を、どのように改善すべきか)
改善の期限

期限までに改善が見られない場合、または再度同様の問題を起こした場合には、懲戒処分を含む次のステップに進む可能性があること。
なお、指導の際は、一方的に非難するのではなく、当該職員からの弁明(言い分)も聴取し、その内容も記録しておくことが重要です。

懲戒処分の検討

度重なる指導・注意にもかかわらず改善が見られない、あるいは問題行為が極めて悪質・重大である(利用者への虐待、重大な法令違反など)場合には、懲戒処分を検討します。懲戒処分を行うには、以下の点に細心の注意が必要です。

就業規則上の根拠

行う処分の種類(譴責、減給、出勤停止、懲戒解雇など)と、その理由となる事由(懲戒事由)が、就業規則に明記されていることが必須です。

処分の相当性

問題行為の態様、重大性、頻度、反省の有無、過去の指導履歴などを総合的に考慮し、その行為に見合った処分(重すぎない処分)を選択しなければなりません。で触れた函館地裁の例のように、問題行為が認定されても解雇が重すぎると判断されるケースは多々あります。

適正な手続き

処分対象者に弁明の機会(言い分を述べる機会)を必ず与えなければなりません。これを欠くと、処分自体が無効とされるリスクがあります。
特に「懲戒解雇」は、裁判において認められるハードルは高いと考えてください。そのため、実行する前に必ず専門家である弁護士に相談してください。

専門家への相談を

問題社員への対応は、初期対応を誤ると法的な紛争に発展しやすく、事業者側が大きなリスクを負うことになります。
事実関係の調査方法、指導書の作成方法、懲戒処分の選択や手続きの進め方など、対応に少しでも迷った場合は、早い段階で弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

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