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建設・建築業の経営者の方へ|業界特有の法的リスクと顧問弁護士による解決策

社会を支える建設・建築業、その裏に潜む法的リスク

私たちの社会インフラや生活空間を形作る上で、建設・建築業はなくてはならない基幹産業です。日々、多くの企業、特に地域経済を支える中小企業が、その重要な役割を担っています。

しかし、その社会貢献度の高さとは裏腹に、建設・建築業界は、重層的な下請構造や請負契約といった特有の取引慣行、そして昨今の人手不足や働き方改革の波など、複雑な経営環境下に置かれています。

こうした背景から、建設・建築業においては、工事代金の未払いや契約内容を巡るトラブル、労災事故や長時間労働といった労務問題など、様々な法的リスクが常に存在します。これらのトラブルは、時に企業の経営基盤を揺るがしかねない深刻な事態に発展することもあります。

本記事では、建設・建築業の経営者・管理職の皆様に向けて、業界特有の法的リスクを具体的に解説し、それらに対する実践的な対策、さらには紛争の予防と解決に不可欠な「顧問弁護士」活用の有効性について、専門的な視点から詳しくお伝えします。適切なリスク管理と予防法務の実践が、企業の持続的な成長には不可欠です。

 建設・建築業を取り巻く現状:業界特徴と経営課題

構造的特徴

重層下請構造

大規模な工事では、元請業者から一次下請、二次下請へと、複数の階層にわたって業務が再委託されることが一般的です。これにより専門性の高い工事が可能になる一方、下位の業者ほど立場が弱くなりやすく、責任の所在が不明確になったり、不適切な取引条件を強いられたりするリスクがあります。また、実態として指揮命令関係があるにも関わらず請負契約の形式をとる「偽装請負」の問題も発生しやすくなります。

完成を目的とした請負契約であること

建設工事は、民法上の「請負契約」に基づいて行われます。これは「仕事の完成」を目的とする契約であり、受注者は原則として完成責任を負います。しかし、工事は天候や地盤の状態といった外部要因に影響されやすく、予期せぬ事態による工期の遅延や追加コストが発生しやすい特性があります。そのため工事代金の未払い問題や、工事のやり直し、追加工事要求などの問題が発生します。

 経営課題

深刻な人手不足と就業者の高齢化

国土交通省のデータでは、建設業における20代の人材が少なく、就業者の高齢化が進行しており、若手人材の確保と育成が重要とされています。技能労働者の不足は、工期の遅延や品質低下、ひいては労災リスクの増大にも繋がりかねません。若手人材の確保・育成は喫緊の課題です。

長時間労働の常態化と働き方改革の要請

厳しい工期や人手不足を背景に、建設業では長時間労働が長年の課題でした。しかし、働き方改革関連法の施行により、令和641日から、建設業においても時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間、特別条項付きでも年720時間以内など)が罰則付きで適用されています。これに対応できない企業は、行政指導や処罰の対象となるだけでなく、人材確保も一層困難になります。

コンプライアンス意識の高まり

社会全体のコンプライアンス(法令遵守)意識の高まりを受け、建設業においても、建設業法、下請法、労働基準法、労働安全衛生法といった関連法規の遵守が、これまで以上に厳しく求められています。

建設・建築業に潜む法的リスクと対策

建設・建築業において特に発生しやすい企業間の法的トラブルと、その対策について解説します。

請負契約を巡るトラブル(クレーム、追加工事等)

完成した工事に関するクレーム

発注者から「施工ミスがある」「工期が遅れた」「完成した建物に欠陥(契約不適合)がある」といったクレームを受けるケースです。

工事を請け負った業者の責任は民法上の「契約不適合責任」を負っています。契約内容に適合しない場合に、発注者は追完請求(修補、代替物の引渡し等)、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除といった権利を行使できます。

これに対する対策としては、契約締結時に、仕様、品質基準、工期などを明確に合意し、契約書に具体的に記載する、施工中の品質管理、検査体制を強化し、記録を残す、完成時の検査に発注者も立ち会わせ、確認を得る、万一クレームが発生した場合、契約内容と事実関係を冷静に確認し、誠実に対応するといった対応が考えられます。

追加・変更工事のトラブル

当初の契約に含まれていなかった工事の追加や、仕様変更が発生した場合に、その代金支払いを巡ってトラブルになるケースです。この手のトラブルは、「言った、言わない」の水掛け論になりがちです。

対策としては、追加・変更が生じる場合は、必ず事前に発注者と協議し、内容、金額、工期への影響を書面で合意する、安易に口約束で工事を進めない、協議の経緯を議事録などで記録しておく、といった対応が有効です。

 工事代金の未払いと債権回収

建設業にとって、売上である工事代金の未払いは死活問題です。その原因と予防策、そして万が一発生した場合の債権回収について詳しく見ていきます。

未払いが発生する典型的な原因

 未払いが発生する典型的な原因としては、以下のようなことが考えられます。

    ・発注者の資金繰りの悪化、倒産

    ・工事の出来栄えに対する不満(クレーム)を理由とした支払い拒否

    ・追加・変更工事代金の不承認

    ・契約内容の不明確さによる認識の齟齬

    ・下請の場合、上位の業者からの支払いが滞っている

予防策(未然防止のために)

これに対しては、以下のような対策が予防策として有効です。

契約書における支払条件の明確化

支払時期(例:毎月末締め翌月末払い)、支払方法(現金、振込など)、分割払い(中間金)の有無、遅延した場合の遅延損害金利率などを具体的に定めます。

  発注者の信用調査

新規取引先や高額案件の場合は特に、可能な範囲で発注者の経営状況や評判を調査することも有効です。

中間金請求・出来高払いの活用

契約書に工事の進捗に応じて代金の一部を受け取る内容を盛り込むことで、未払いリスクを分散できます。

未払が発生した後の対応ステップ 

代金が期日までに支払われない場合、迅速かつ適切な対応が必要です。

証拠の確保

まず、契約書、注文書・請書、請求書、納品書、工事の進捗を示す写真や記録、メール等のやり取りなど、債権の存在と金額を証明する証拠を確実に保全します。

交渉

まずは電話やメールで支払いを督促し、それでもダメな場合、内容証明郵便を送付し、支払いを強く請求するとともに、法的措置を検討していることを伝えます。これは相手に心理的プレッシャーを与え、後の訴訟で証拠にもなります。

 相手方に支払う意思はあるものの資金繰りに窮している、というような場合は、分割払いなどの支払計画について協議することも選択肢です。ただし、合意内容は必ず書面に残しましょう。

法的手段の選択

交渉で解決しない場合は、法的手段を検討します。

例えば、支払督促(簡易裁判所を通じて行う手続きで、相手方の異議がなければ比較的簡易・迅速に債務名義(強制執行の根拠)を得られる方法。ただし、相手が異議を申し立てると通常訴訟に移行)や、民事調停(裁判所で調停委員を介して話し合い、合意による解決を目指す手続き)も検討すべきです。

ケースバイケースですが、もちろん訴訟も選択肢です。判決を得れば、強制執行が可能になります。

場合によっては、仮差押え(相手方が財産を隠したり処分したりするのを防ぐため、事前に相手方の財産(預金、不動産など)を仮に差し押さえる保全手続)が必要となる場合もあります。

判決を得ても支払が無い場合には、強制執行をすることとなります。判決書のような債務名義に基づき、裁判所を通じて相手方の財産(預金債権、売掛金債権、不動産、動産など)を差し押さえ、強制的に債権を回収する手続です。

なお、建設工事紛争審査会の活用も選択肢の1つです。建設業法に基づき設置されている専門機関で、建設工事の請負契約に関する紛争について、あっせん・調停・仲裁を行っています。裁判よりも迅速かつ専門的な解決が期待できる場合があります。

 

債権回収を弁護士に依頼するメリット

債権回収は専門的な知識と経験が必要です。弁護士に依頼することで、

 事案に応じた最適な回収手段の選択

 相手方との交渉

 内容証明郵便や訴状等の法的書類の作成・提出

 訴訟・強制執行手続の代理

など、法的サポートを受けることができます。早期に相談することで、回収可能性が高まるだけでなく、経営者自身の時間的・精神的負担も大幅に軽減されます。

 

下請法違反のリスク

資本金規模で優位にある親事業者が、その立場を利用して下請事業者に対して不当な取り扱いをすることを防ぐのが「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」です。建設工事(請負・委託)も対象となります。

対象となる取引

親事業者と下請事業者の資本金区分によって、下請法が適用されるかどうかが決まります。自社が下請事業者に該当する場合だけでなく、元請として下請業者に発注する際に親事業者に該当する場合もあります。

親事業者の義務・禁止行為

発注書面の交付義務、支払期日を定める義務(給付受領後60日以内)、書類の作成・保存義務などが課され、買いたたき、受領拒否、下請代金の支払遅延、不当な減額、不当な経済上の利益提供要求などが禁止されています。

下請法違反のペナルティ 

下請法に違反すると、公正取引委員会や中小企業庁から指導や助言、勧告(企業名公表を伴う場合あり)を受ける可能性があります。

下請け法違反の対策

下請法の適用対象となる取引かどうかを確認し、適用される場合は、契約書面の交付、支払期日の遵守などを徹底するための社内体制を整備することが重要です。不明な点は弁護士に相談しましょう。

 

建設・建築業における法的リスクと対策(労務トラブル編)

従業員との間で発生しやすい労務問題について、そのリスクと対策を解説します。

 (1) 長時間労働と残業代未払い

厳しい工期、慢性的な人手不足、天候による作業の遅れ、朝礼や移動時間、現場間の移動など、建設業特有の事情から長時間労働が常態化しやすい傾向にあります。

ア 労働基準法違反

36協定を締結せずに時間外労働をさせたり、協定の上限を超えて働かせたりすると、労働基準法違反となります。20244月からの上限規制により、このリスクはより高まっています。

イ 未払残業代請求を受けるリスク

労働時間を適切に管理せず、法定の割増賃金(時間外・休日・深夜)を支払っていない場合、従業員(退職者含む)から過去に遡って未払い残業代を請求されるリスクがあります。遅延損害金や付加金(裁判所が命じるペナルティ)が加算されることもありますので、その額は高額になる場合があります。

ウ 長時間労働による従業員の健康被害・労災リスク

長時間労働は、脳・心臓疾患や精神疾患の原因となり、労災認定のリスクを高めます。

エ 対策

 対策としては、以下のようなことが考えられます。

 ① 労働時間の客観的な把握

タイムカード、ICカード、勤怠管理システム、PCログなどを活用し、始業・終業時刻を1分単位で正確に記録・管理することで、労働時間の客観的な把握が可能になります。

② 36協定の適切な締結・運用、割増賃金の正確な計算と支払い

上限規制を遵守した内容で36協定を締結・届出し、その範囲内で時間外労働を行ってもらいます。そして、割増賃金の正確な計算・支払いをすることで、トラブルを未然に防ぎます。なお、固定残業代制度を導入している場合も、実労働時間が固定分を超えれば差額の支払いが必要です。

 (2) 労災事故と安全配慮義務

建設現場は、高所作業、重機操作、重量物の取り扱いなど危険な作業が多く、墜落・転落、飛来・落下、感電、挟まれ・巻き込まれといった労働災害のリスクが他の業種に比べて高いといえます。

ア 企業の法的責任

 ① 安全配慮義務違反

  企業は、労働契約に基づき、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています(労働契約法第5条)。これに違反して労災事故が発生した場合、企業は従業員に対して民事上の損害賠償責任(債務不履行または不法行為に基づく)を負う可能性があります。

② 労災保険との関係

労災保険から治療費や休業補償などが給付されますが、これは損害の一部を填補するものであり、慰謝料などは対象外です。そのため、労災保険給付だけではカバーされない損害について、従業員から別途損害賠償請求を受ける可能性があります。

③ 使用者責任

従業員が業務中に第三者に損害を与えた場合、企業が使用者責任(民法第715条)を問われることもあります。

イ 対策

予防としての対策は、安全衛生管理体制の確立、安全教育の徹底、安全設備の設置・点検、

現場の巡視・監督といったことが考えられます。

 

5 トラブルを放置するリスク

 これまで見てきたような企業間トラブルや労務問題を、「よくあることだ」「そのうち解決するだろう」と安易に考え、放置してしまうと、以下のような深刻な事態を招きかねません。

 

1)高額な金銭的負担

未払い代金や損害賠償請求、未払い残業代請求(遅延損害金・付加金含む)、慰謝料支払いなどにより、多額の支出を強いられます。

2)訴訟リスクと負担

紛争が訴訟に発展すれば、弁護士費用だけでなく、経営者や担当者が対応に多くの時間と労力を費やすことになります。

3)行政処分・許認可への影響

建設業法違反(例:一括下請負禁止違反、不誠実な行為)、下請法違反、労働基準法違反(例:賃金不払い、違法な長時間労働)、労働安全衛生法違反(例:重大労災発生)などにより、指示処分、営業停止処分、建設業許可の取消・停止、公共工事の指名停止といった厳しい行政処分を受ける可能性があります。

4)信用の失墜と事業への影響

トラブルや行政処分が報道されたり、業界内で噂になったりすれば、金融機関からの融資、取引先との関係、公共工事の受注、採用活動など、事業全体に悪影響が及びます。

5)人材の流出

労務環境が悪化すれば、従業員のモチベーションが低下し、優秀な人材が離職してしまいます。

 

トラブルの芽は小さいうちに摘み取り、適切な対応を迅速に行うことが、企業を守る上で極めて重要です。

 

建設・建築業に顧問弁護士を:予防法務と迅速なトラブル解決

 複雑な契約関係、厳しい法規制、多発する労務問題…。建設・建築業は、他の業種以上に法的リスクに晒されやすい業界と言えます。

だからこそ、問題が発生してから対処するだけでなく、問題発生を未然に防ぐ予防法務の視点が不可欠であり、その強力なパートナーとなるのが顧問弁護士です。

1)顧問弁護士の具体的な活用メリット

ア 契約書のリーガルチェック・作成支援

請負契約書、下請契約書、業務委託契約書、雇用契約書など、リスクを最小化し、自社に不利にならない契約書の作成やレビューを依頼できます。

イ 法令遵守に関する相談・アドバイス

建設業法、下請法、労働基準法、労働安全衛生法など、遵守すべき法規について、日常的に疑問点を相談し、適切なアドバイスを受けられます。法改正にも迅速に対応できます。

ウ 労務管理体制の構築・見直し支援

就業規則の作成・改定、36協定の適切な運用、勤怠管理方法、安全衛生管理体制などについて、法的な観点からサポートを受けられます。

エ トラブル発生時の迅速な初期対応

代金未払い、クレーム、労災事故、従業員との紛争などが発生した場合、すぐに相談し、相手方との交渉や必要な法的措置(内容証明送付、訴訟対応など)を迅速に依頼できます。初期対応の的確さが、その後の展開を大きく左右します。

ウ コンプライアンス研修の実施

従業員向けのコンプライアンス研修を依頼し、社全体の法令遵守意識を高めることができます。

 

2)顧問弁護士は、いわば企業の「法務部」のような存在

問題が発生してから慌てて弁護士を探すよりも、日頃から自社の状況を理解してくれている顧問弁護士がいる方が、はるかに迅速かつ的確な対応が可能となり、結果的にコスト(時間・費用・精神的負担)を抑えることにも繋がります。

 

法的リスクに備え、持続的な企業経営を目指す

建設・建築業界は、社会に不可欠な役割を担う一方で、人手不足、働き方改革、コンプライアンス強化といった変化の波に直面し、企業間トラブルや労務問題といった法的リスクも常に隣り合わせです。

これらのリスクを適切に管理し、企業の持続的な成長を実現するためには、日頃からの予防法務への取り組みと、コンプライアンス体制の構築が不可欠です。そして、その実践において、建設・建築業界の実情に詳しい弁護士、特にいつでも気軽に相談できる顧問弁護士の存在は、経営者にとって心強い味方となるでしょう。 

法的な問題は、早期発見・早期対応が鍵です。自社のリスク管理体制に不安がある、あるいは既に何らかのトラブルを抱えているという経営者・管理職の方は、決して問題を放置せず、できるだけ早く専門家にご相談ください。

 

建設・建築業の法律問題(契約トラブル、債権回収、労務問題、下請法対応、労災対応など)、顧問契約に関するご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。

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