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未払残業代について
こんなことでお困りではありませんか
・退職した従業員から支払ってもらっていない残業代があるとして支払いを求める内容証明がとどいた
残業代の請求が届いた場合、「給料は全部支払っている」として、これを無視することは厳禁です。場合によっては、後で述べるようなペナルティが付加される事もあります。
請求する旨の文書が届いた場合には、検討のうえ、適切な対応が必要となります。
未払残業代とは
未払残業代とは、会社が労働者に対して支払っていない残業代のことをいいます。
残業代の割増率と時効
割増率
1週間40時間、1日8時間の法定労働時間を超える残業をした場合には、25%以上の割増賃金を支払うことが義務づけられています。
また、月60時間を超えた場合は、50%以上の割増率となります。
その他、深夜労働、休日労働があった場合などをまとめると次のとおりです。
法定労働時間を超える労働(時間外労働) 割増率25%以上
深夜労働 25%以上
休日労働 35%以上
月60時間を超えた分 50%以上
深夜の時間外労働 50%以上
深夜時間の休日労働 60%以上
月60時間を超え、深夜労働があった場合 75%以上
なお、月60時間を超えた分の割増率(50%以上)はこれまで適用される会社が大企業に限定されていましたが、2023年4月からは中小企業も同率となりました。
時効〜当分の間は3年
以前は2年でしたが、延長されました。
消滅時効に関する民法改正を受けて法律が改正され、令和2年4月1日から施行されています。対象となるのは、同日以降に支払期が到来する賃金です。 賃金請求権についての消滅時効期間を賃金支払期日から5年(これまでは2年)に延長しつつ、当分の間はその期間は3年となります。
時効期間が延長されたことにより、請求される企業側は、請求金額が増額されるリスクが増えた事になります。
残業代の請求を放置した場合に考えられるペナルティ
残業代の請求が来た場合、放置は厳禁ですが、万が一これを放置してしまった場合には、次のようなペナルティが考えられます。
遅延損害金
本来支払うべき日を過ぎると、遅延損害金が発生します。従業員の在職中は年3%です。
なお、賃金の支払いの確保等に関する法律により、従業員が退職した場合には、退職した日の翌日からは年14.6%の割合による遅延利息の支払いが必要になってしまいます。支払わずに放置してしまうと、遅延損害金がどんどん膨らんでいく計算となります。
付加金
付加金というのは、時間外・休日・深夜労働の割増賃金等を支払っていない場合に、裁判所がその金額と同一額の支払を命じる場合の金銭をいいます。付加金の支払を命じる判決が確定すると、会社は未払額に加えて付加金をも支払わなければなりません。
具体的対応について
それでは、以下では具体的な対応についていくつか記します。
タイムカード等の開示要求には応じるべきか
内部資料だから応じる必要はない?
未払賃金の請求とともに、会社にあるタイムカード等就労の記録を開示することや、会社で定める就業規則を開示するよう求められることがあります。会社からすれば、内部資料であるのだから、辞めた従業員に開示する必要などないのでは、という疑問が生じるかもしれません。
結論:積極的に応じた方がよいと思われます
疑問は心情として分からなくもありませんが、結論としては積極的に応じるべきかと思います。
確かに、会社はタイムカードを開示することを直接的に定めた法律は存在しません。
しかし、使用者には労働時間を適正に把握する責務があるとされており(労働時間の手適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)、当該ガイドラインでは「使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること」等が定められています。また、タイムカードの開示義務を認めた裁判例もあります(大阪地裁H22.7.5)。
当該裁判例においては、「使用者は、労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として、信義則上、労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り開示すべき義務を負うと解すべき」と判断されています。
当該裁判例では、開示しないことについて精神的苦痛が生じているとして、10万円の慰謝料支払いも命じられています。
資料開示をしないことは解決を遅らせるだけでなく、場合によってはそれ自体が不法行為として慰謝料の支払義務が生じる可能性もあることから、むしろ積極的に開示する方が良いと思われます。
反論できる可能性はないか検討する
未払残業代の請求を受けた場合、まずはその請求に対して反論できる可能性がないか検討が必要です。
残業代の計算は正しいか
従業員側からの請求が正しいか、以下のような観点から検討が必要です。
仕事をしていない時間も計算対象に含まれていないか
労働者が指揮監督命令下に置かれていない時間帯は労働時間に該当しません。そこで、請求の対象に、労働時間に当たらない時間が含まれていないか検討が必要です。
なお、実際に仕事をしているかいないかで判断されるわけではありません。会社側からの指示が出た場合に即応しなければならないような状況下では労働から解放されているとは言いえず、労働時間とみなされることになります。具体的に見ていきましょう。
待機時間
業務と業務の間で待機しなければならない時間帯がある場合、その時間仕事をしていなくとも、会社の指示があればすぐに作業しなければならない、というような場合、その待機時間は労働時間と認められます。
例えば、運送業のドライバーが荷下ろしの順番待ちに要した時間などは、ケースバイケースではありますが、運んでいる物の性質上常時監視が必要であったり、呼び出しや連絡に即応しなければならないような状況であれば、労働時間であると認められる可能性は高いと言えます。
逆に、次の仕事の指示があるまで自由に過ごすことができ、呼び出しや連絡にも自分の都合で対応すれば良い状況にあったというような場合には、労働時間では無かったといいやすくなると思われます。
移動時間
通勤時間は労働時間に当たりませんが、勤務開始後に取引先へ移動する時間や、営業職が、事業所に戻ってその日の業務の報告が義務づけられているような場合の帰社のための時間は労働時間にあたると思われます。
朝礼の参加時間
朝礼を実施する会社の場合、事実上それへの参加は強制されていると評価されることが多いと思います。会社による指揮監督下にあるものとして、労働時間として認められる可能性が高いと思われます。
休憩時間
業務から完全に解放されている状況ならば、当然休憩時間は労働時間に含めません。他方、オフィスにいることが求められ、電話番をしていなければならないようなケースでは、労働時間として認められる可能性が高いと思われます。
時効にかかっている分も請求されていないか
前述のとおり、未払賃金の時効は現在3年とされています。それよりも遡って請求がされていないか、確認が必要です。
残業代がそもそも発生するか
管理監督者該当性
労働基準法上の管理監督者に該当すれば、当該管理監督者には、割増賃金は発生しません。
管理監督者に該当するかどうかは、
・職務内容、責任と権限について:職務内容や与えられた責任、権限について、経営者と一体的な立場にあるといえるか
・勤務態様について:労働時間の裁量があるか、部下の勤務態様と同様か
・賃金等の待遇について:基本給や手当等による優遇措置の有無、役職に見合った賃金が支給されているか、等
の要素を考慮し、資格や職位の名称にとられず実施的に判断されることになります。
無許可残業をしていた場合
会社として残業を許可制にしていた場合で、許可なく残業をしていた場合でも、それが黙認されていたような状況にあった場合には、残業代が発生します。無許可残業であるから支払わない、といえるためには、制度の周知徹底がなされ、実際に制度が運用されている必要があります。
残業代対応を弁護士に依頼するメリット
残業代対応は、請求を無視したり、対応が遅れてしまったりして時間が経過すると、支払い額がどんどん膨らんでしまう可能性があります。
法律的な観点から事案解決までの道筋を見通し、交渉に当たる必要があることから、専門家である弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。
当事務所では、これまでの経験に基づき、依頼者の要望、実態にあわせたサポート対応が可能です。是非ご相談下さい。