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こんなお困りごとはございませんか
・従業員から、上司の指導が必要以上に厳しく、パワーハラスメント(パワハラ)ではないかという相談があった。
・従業員から、上司から性的関係を持ちかけられた。セクシャルハラスメント(セクハラ)ではないか、と申告があった。
・会社に取っては寝耳に水で、どう対応したらわからない。当事者だけの話ならともかく、会社にも何らかの責任が生じるのではないかと不安。
社内のハラスメントを放置しても大丈夫?
・ハラスメントの問題が社内で発生した場合、「それは当事者の問題だから当事者でなんとかしてもらうしかない」と考え、放置することは厳禁です。被害相談、被害申告が会社に上がってくる段階で、既に被害者側には相当のストレスがかかっていると思われます。会社が最終的にどのような対応をとるかはともかくとして、放置はせず、適切な調査をした上で、対応をすることが必要となります。
ハラスメントの定義
パワーハラスメント
パワーハラスメントとは、職場において行われる、
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの
をいいます。
具体的な行為類型としては、
①暴行・脅迫(身体的な攻撃)脅迫(身体的な攻撃) ②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃) ③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し) ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求) ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過少な要求) ⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
が上げられています。
なお、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワーハラスメントに該当するものではありません。
セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメントとは、最も広い定義としては、「相手方の意に反する性的言動」をいいます。国家公務員を対象とする人事院規則10−10では、「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」と定めています。
職場におけるセクシャルハラスメントには「対価型」と「環境型」があります。
「対価型」:対価型セクシャルハラスメントとは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることをいいます。
「環境型」:環境型セクシャルハラスメントとは、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。
セクハラとなりうる言動として、「人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について」では、以下のようなものが上げられています。
職場内外で起きやすいもの
性的な内容の発言関係
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
① スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること。
② 聞くに耐えない卑猥な冗談を交わすこと。
③ 体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」、「もう更年期か」などと言うこと。
④ 性的な経験や性生活について質問すること。
⑤ 性的な噂を立てたり、性的なからかいの対象とすること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
① 「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」、「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言すること。
② 「男の子、女の子」、「僕、坊や、お嬢さん」、「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること。
③ 性的指向や性自認をからかいやいじめの対象としたり、性的指向や性自認を本人の承諾なしに第三者に漏らしたりすること。
性的な行動関係
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
① ヌードポスター等を職場に貼ること。
② 雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり、読んだりすること。
③ 身体を執拗に眺め回すこと。
④ 食事やデートにしつこく誘うこと。
⑤ 性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙・Eメールを送ること。
⑥ 身体に不必要に接触すること。
⑦ 浴室や更衣室等をのぞき見すること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
女性であるというだけで職場でお茶くみ、掃除、私用等を強要すること。
主に職場外において起こるもの
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
性的な関係を強要すること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
① カラオケでのデュエットを強要すること。
② 酒席で、上司の側に座席を指定したり、お酌やチークダンス等を強要すること。
ハラスメントを放置するリスク
ハラスメントを放置するリスクとしては、以下のようなものがあげられます。
職場全体へ悪影響が及ぶリスク
ハラスメント問題は当該当事者間のみの問題ではありません。職場全体に深刻な影響を及ぼす問題です。被害者は心理的苦痛やストレスを経験し、職場でのパフォーマンスが低下する可能性があります。さらには、健全な職場文化の損害やチームの士気低下、組織の信頼性の低下なども引き起こす可能性があります。
従業員に、各自の能力を十分発揮してもらい、ひいては企業の業績を向上させるためには、ハラスメント問題を決して放置してはいけません。事前の体制整備や、事後の適切な対応を行い、従業員の会社に対する信頼を確固たるものとしておくことが大切です。
損害賠償のリスク
会社が賠償責任を負う根拠
ハラスメント行為の被害を受けた従業員から、加害者本人に対してだけでなく、会社に対して、職場環境配慮義務違反(民法415条、同709条)、使用者責任(同715条)を根拠として、損害賠償請求されるリスクがあります。
ハラスメント行為=賠償義務の発生、ではない
加害者側の行為がハラスメント行為と評価できるものだったとしても、直ちに加害者及び会社が賠償責任を負うわけではありません。賠償が認められるには、賠償責任を肯定するだけの違法性が認められる必要があります。
セクハラの損害賠償における違法性について言及した裁判例(名古屋高裁金沢支部H8.10.30、金沢セクハラ事件)
「男性の上司が部下の女性に対し、その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく、その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となるというべきである。」
パワハラについては、「パワーハラスメントの定義について」(平成30年10月17日 雇用環境・均等局)において、裁判例において違法性が認められなかった例として以下のようなものがあげられています。
・販売担当者が販売実績を知らないことに対して「その程度のことは把握しておくように」と注意する
・至急の業務を命令した後、進捗を確認することなく、部下が進捗を報告しなかった旨を責めるメールを送信して帰宅
パワハラ事案における加害行為の違法性の評価については、当該言動が適切な指導であると評価できるのかどうか、という観点から考える必要があります。
ハラスメントが発生した際の対応ステップ
事実確認と証拠の確保
ハラスメント問題が発生した場合には、まず、事実関係を確認して証拠を確保し、どのような事実があったのかを確定させる必要があります。気をつけるポイントとしては、以下の点が挙げられます。
ヒアリング
・当事者双方からヒアリングが出来ているか
・具体的な事実(5W1H)のヒアリングが出来ているか
・被害者への配慮(同性のヒアリングを希望しているかなど)ができているか。
証拠の確保
・メールや録音・録画媒体などの客観的証拠があるか、あるとして確保できているか
・事案を把握した以降、調査の実施時期、方法、内容等の経過が記録されているか
処分の検討、実行
事実関係の確定ができ、かつ、ハラスメント行為の存在が確認できた場合には、加害者の配置転換や被害者への調査結果の報告、再発防止としての職場における研修、会社のセクハラに対する対応方針の周知徹底といた措置のほか、加害者に対する懲戒処分等の対応を検討し、実行します。懲戒処分において気をつけるポイントとしては、以下の点が挙げられます。
就業規則の懲戒事由のうち、どれに該当するか
就業規則上にハラスメント行為が懲戒事由とされている場合には問題ありませんが、そうでない場合、どの条項を適用することが出来るかといった検討が必要です。
就業規則において定められている懲戒のための手続を踏んでいるか
処分内容は適切か
行った行為と比較して明らかに過大な処分、例えば懲戒解雇をした場合、不当解雇であるとして今度は加害者側から会社に対し損害賠償等の請求がなされるおそれもあります。過去の処分例とのバランスを検討するなどの配慮を必要とします。
ハラスメントを発生させないための体制づくり
ハラスメント問題を発生させないための体制づくりは、問題の予防として大変重要です。会社として取り組むべき方策としては、
就業規則においてハラスメントに関する規程を設ける
会社方針の明確化と周知・啓発
相談窓口の設置、相談対応のための体制整備(対応手順の確立やマニュアル作りなど)
ハラスメント対応を弁護士に依頼するメリット ・当事務所のサポート
具体的なハラスメント問題が発生した場合、弁護士に対応を依頼することで、事実関係の確定、措置の検討、実行について、スムーズかつ適切な対処をすることが可能になります。
また、問題発生を未然に防ぐための、規則の整備等の体制づくりについても、弁護士にこれを依頼することで、会社の実態に合わせた体制づくりが可能になります。
当事務所では、これまでの経験に基づき、依頼者の要望、実態にあわせたサポート対応が可能です。是非ご相談下さい。