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解雇

解雇に関する経営者の誤解

解雇に関する誤解〜解雇予告手当を払えば解雇できる???

解雇に関する誤解が広く存在しています。経営者の方からしばしば聞くものとして、1つは、「1か月前に予告すれば解雇できる」というものです。また、「30日分の賃金を払えば解雇できる」とも思われがちです。

さらには、「就業規則に定めた懲戒事由があれば懲戒解雇できる」と考える人もいます。これらはいずれも誤解です。

たしかに、労働基準法には、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と定められています(同法201項本文)。

また、「前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。」ともあります(同条2項)。また、殆どの就業規則には、懲戒事由が定められており、懲戒の種類として懲戒解雇を設けているでしょう。

文字通りにこれを受け止めるならば、解雇をすることにはさほど問題がないようにも見えます。

しかし、実際には違います。重要な点としてご理解頂きたいのは、解雇予告や、解雇予告手当の支払いは、解雇を行う際に必要な手続きの一部に過ぎない、ということです。単に予告をしたり、30日分の賃金を支払ったりするだけで、解雇が無条件で認められるわけではないのです。

また、単に懲戒事由に該当するだけでは、懲戒解雇が認められるわけではないのです。解雇を有効に行うには、その他の一定の条件を満たさなければなりません。

不当解雇は無効であり、バックペイを支払う義務が生じる

もしこれらの条件を満たしていない場合、解雇は無効とされ、働く権利を奪われた労働者は本来得るはずだった賃金、いわゆる「バックペイ」を受け取る権利が生じます。

従って、解雇を検討する場合には、解雇について正確に理解した上で、解雇という手段をとることが出来るか、慎重に検討する必要があります。

以下では、解雇の種類や、各種解雇が認められる具体的な条件についてさらに詳しく解説していきます。

解雇が何であるかを知ろう

そもそも解雇とは

解雇とは、使用者の一方的な意思表示に基づき労働契約を解約する行為を指します。

民法6271項によれば、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と規定されています。

この規定に従えば、期間を定めない雇用契約は、解約申入れ日から2週間後に終了しますが、実際にはそのようなことはできません。解雇行為は労働者やその家族に深刻な影響を与えるため、実際の解雇事例では、裁判例において解雇の正当性に対して厳格な解釈がなされています。    

解雇権濫用法理

最高裁は、昭和50425日の判決において、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上、相当と認められない場合、権利の濫用として無効である」との立場を示しました。これにより、解雇権の濫用が法的に認められないことが明確化されました。

この解雇権濫用の法理は、後に労働契約法16条として法制化されました。この規定により、使用者は合理的な理由なく労働者を解雇することはできず、解雇の正当性が常に問われることとなります。

 なお、期間の定めのある労働契約の解雇においては、「やむを得ない事由」が必要とされており(労働契約法171項)、期間の定めのない労働契約と比べてより厳しい要件を満たす必要があるとされています。

解雇の種類

解雇には2つの種類があります。

普通解雇

1に、「普通解雇」です。普通解雇は、以下の理由に基づいて行われます。

労働者側の事情
労務提供が不可能な場合 

例えば健康上の理由やその他の労働者の状況により、労働者が職務を果たせない状態を指します。

労働能力や適格性の欠如

労働者が求められる業務を適切に遂行する能力や資格がないと判断された場合です。

労働者の規律違反行為

具体的には、業務命令違反や不正行為、暴行などの非違行為を理由に解雇が行われるものです。

経営上の必要性に基づく解雇(整理解雇)

これは経営の合理化や効率化、あるいは事業の縮小や閉鎖などの理由で、労働者を解雇せざるを得ない場合を指します。

懲戒解雇

懲戒解雇は、労働者が重大な違反や不正行為を犯した際に行われる解雇です。企業の秩序違反行為に対する制裁罰の1つとして位置づけられるものです。懲戒権の行使についても、労働契約法15条において、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」とし客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が求められています。

解雇はハードルが高いことを知ろう

解雇はハードルが高い

 一言で言えば、解雇は種類を問わず、認められるためのハードルが高いです。

解雇に踏み切った結果、紛争となり、裁判で長期間争ったが解雇無効が確定したというような場合、バックペイの支払いや、紛争の存在が広く知られた場合における他の労働者や取引先による評価の低下など、会社へのダメージは大きくなる可能性があります。リスクの大きさを考えると、直ちに解雇に踏み切るのではなく、指導や配置転換、退職勧奨他の措置によって問題の打開策を打てないかを考えるのが重要です。

ハードルの高さの実例:高知放送事件(最高裁昭和52131日)

 著名な事件に高知放送事件という事件があります。

 アナウンサーが寝過ごしたために定時のラジオニュースが放送できないことがありました。同アナウンサーは、223日と38日、2度同様の放送事故を起こしました。また、このことについて、上司に報告しなかった上、その後に求められた報告では事実と異なる報告書を提出しました。

 上記事故に対し、裁判所は、アナウンサーの行為が普通解雇事由に当たるとしながらも、いずれも過失によるものであり悪意や故意によるものでは無いことなどを理由に、普通解雇を無効とした原審の判断を支持しました。

 いかがでしょうか。解雇のハードルがかなり高い、と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

解雇の種類別解説

 以下では、解雇の種類別に、どのような場合であれば解雇が認められ得るかを解説します。

普通解雇

労働者側の事情

ア 労働提供の不能や適格性、能力の欠如、規律違反といった労働者側の事情により解雇する場合において先に述べた「合理的な理由」があると判断されるには、以下のような事情が必要です。
業務の遂行や企業の規律維持に重大な支障が生じていないか

 人事考課が低いというだけでは合理的な理由があるとはみとめられ難いです。当該事情が存在するゆえに、業務の遂行や企業の規律維持に重大な支障が生じているといった事情が必要です。

事前に指導等改善の機会を与えたにもかかわらず改善の見込みがないと言えるか

 改善のチャンスを与える、というプロセスを踏むことが重要視されています。業績不良な従業員や問題行動に及んだ従業員がいた場合には、当該問題に対して向き合ってもらい、改善の機会をあたえて、改善の見込みが無い段階で、解雇に踏み切るべきです。また、当該プロセスを後で振り返ることが出来るように、指導内容を書面にするなどして、形に残しておくことも重要です。

職務内容や配置の変更など、解雇以外の対応ができないか

 前記②に類似しますが、たとえば、適性にあった職種の転換など、解雇せずに問題への対応が可能な場合には検討をすべきです。要するにやれるだけのことは尽くした、ということを、客観的に、目に見える形で実施することが重要です。

裁判例

例えば、東京地裁平成28328日(日本アイ・ビー・エム事件)は、業績不良を理由として解雇したところ、解雇が無効であると争われた事案です。本件では、成績が不良であるとしても、適性にあった職種への転換や一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性を具体的に伝えた上での業績改善の機会付与といった手段を講じることをしなかったことを理由に解雇を無効としています。

経営上の必要性に基づく解雇(整理解雇)

整理解雇の場合に求められる合理的理由は、以下の4つの要素に着目して合理的理由の判断が行われます。

人員削減の必要性     
解雇回避の努力
人選の合理性
手続の相当性

懲戒解雇

懲戒解雇は、企業秩序違反を理由として行う制裁措置ですので、予め懲戒処分の事由と種類が就業規則において定められていなければなりません。

そして、懲戒処分には、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が求められており(労働契約法15条)ますから、懲戒解雇も当然に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。

また、懲戒処分は刑事罰に類似していることから、刑事法の原則と似た、以下のようなルールが適用されます。

遡及処罰の禁止

非違行為をがなされた後に、当該行為を懲戒事由とする就業規則を定めても、遡って懲戒処分をすることは出来ません。

一事不再理の原則

過去になされた懲戒処分と同一事由についてさらに懲戒処分をすることは出来ません。

適性手続の原則

特に懲戒解雇の場合には、弁明の機会を与えるなどして、手続きが適性に行われる必要があります。

解雇への対応を弁護士に依頼するメリット

解雇への対応は、解雇が有効になしえるか、難しい場合にはどのように対処すれば良いか、といった見通しを持つことが必要です。

対応を弁護士に依頼するメリットは、紛争となった場合の見通しをふまえた対応が期待できるという点です。

解雇問題に対する対応は、解雇に踏み切った後に紛争となり、その時点でご相談頂くことが多いですが、実際には「もっと早く相談して貰えたら他の方法がとれたのに」と感じるケースがとても多いです。

紛争になった場合の見通しを持って対応ができるということは、裏を返せば、紛争が大きくなる前に解決する策をとることができるということになります。

当事務所のサポート

紛争となった場合の対応はもちろんのこと、紛争に発展することを未然に防ぐための就業規則の整備等体制づくりや従業員への指導方法などについても、ご依頼いただくことで適切な対応が可能になります。

当事務所では、これまでの経験に基づき、依頼者の要望、実態にあわせたサポート対応が可能です。是非ご相談下さい。

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