建設・建築業界において、当初の設計通りに全てが完了することは稀です。施主からの追加要望や、現場で発覚した地盤の問題、予期せぬ資材価格の高騰などにより、追加・変更工事」は日常的に発生します。
しかし、現場のスピード感や信頼関係を優先するあまり、正式な書面を交わさず口約束で進めることはトラブルの種となります。完工後に「そんな金額がかかるとは聞いていない」「サービスだと思っていた」といった主張をされ、未払いトラブルに発展するリスクを抱えることになります。
本記事では、弁護士の視点から、追加・変更工事における紛争を回避し、正当な報酬を回収するための方法について解説します。
追加・変更工事においてよくあるトラブル
追加・変更工事を巡る紛争の多くは、当事者間の認識の齟齬、いわゆる「言った言わない」に端を発します。 代表的なトラブル事例を整理します。
「無断の施工である」という反論
施主側から「そんな工事は依頼していない」「勝手にやったことだ」と主張され、報酬支払いを拒絶されるケースです。
「本来予定されている工事の範囲内」という主張
「その作業は当初の請負代金に含まれているはずだ」という反論です。 請負人が、当該工事を行うにあたり、当然予想されるべき工事を見積もりから漏らした場合であったりすると、その工事は、当初の請負代金に含まれていたと認定され、追加代金の請求は難しくなるでしょう。
「無償(サービス)工事」としての認識
「打ち合わせの際に、ついでにタダでやっておきますと言ったはず」と、有償性の合意を否定されるパターンです。
工期延長に伴う損害賠償請求
追加工事により工期が伸びた際、書面で工期変更の合意をしていないと、契約書において工期が遅延した場合の遅延損害金について定めていた場合、施主から「遅延損害金(引渡しが遅れたことによる賠償金)」を請求されるリスクがあります。
追加・変更工事の報酬請求に契約書は必要なのか
結論から申し上げれば、追加・変更工事についても契約書の作成は法律上の義務であり、かつ報酬請求を確実にするための最良の証拠となります。
建設業法上の義務(第19条第2項)
建設業法では、工事内容、代金、工期などの重要事項を変更する場合、その内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することが義務付けられています。 これに違反すると、刑事罰はなくとも指示処分や営業停止などの行政処分の対象となり、企業の社会的信用を大きく損なうことになります。
契約書が無い場合でも、「黙示の合意」が認められる場合はある
契約書は建設業法上必要なものですが、万が一、契約書がない場合でも、メールのやり取りや工事現場の「打合せ議事録」が有力な証拠となることがあります。 見積書を提示し、施主が異議を唱えずに着工を容認した場合は「黙示の合意」があったと認定されることもありますが、これはあくまで「証拠が揃っている場合」に限られます。紛争を確実に勝ち抜くには、やはり契約書(合意書)の存在が不可欠です。
契約書(合意書)はどうやって作ればよいか
建設業法19条1項において、契約書に記載せねばならない項目が16項目あげられています。これを網羅したものであればおよそ問題はありませんが、支払を認めてもらうにあたり記載すべき必須の項目としては、以下があげられます。あらかじめ、ひな形を作成して準備しておくのがよいでしょう。
合意書に記載すべき必須項目
元契約の特定
どの工事に対する追加・変更なのかを明記(当初の契約日や工事名)。
具体的な工事内容
見積書を添付するなどして、具体的に指定。
追加・変更代金
代金を明記。
変更後の工期
新たな完成・引渡予定日を明確に記載。
支払条件
最終代金に合算するか、別途支払うか等の時期と方法。
作成・運用のポイント
● 「着手前」の締結を徹底: 工事が進んでからでは「お金がかかるなど聞いていない」「そんなにかかるとは聞かされていなかった」等と言われてしまうおそれがあります。必ず着工前に書面を交わすことが鉄則です。
● 工事内容は明確に表示する: 「追加工事一式」とするのは楽ですが、契約内容が曖昧になり、トラブルの元です。内訳を明確にしたり、図面や見積書を添付して工事内容を明確認しましょう。
弁護士に依頼するメリット
紛争の予防、紛争となってしまったトラブルの解決には、法的知識を持つ専門家である弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。
● 予防法務の構築: 貴社の業務実態に合わせた契約書の雛形作成や、コンプライアンス研修を行い、トラブルが起きない組織体制を構築します。
● 紛争の早期解決: 弁護士名での通知や交渉により、相手方に対して「未払いを放置すれば法的措置をとる」という強い姿勢を示し、早期の支払い合意を促します。
● 経営への専念: 煩わしい交渉や書面作成を外部委託することで、本業である現場管理や受注活動に集中できます。
紛争予防、紛争の悪化対策のためにご相談を
追加・変更工事の未払いは、一度こじれると解決までに多大な時間と費用を要します。また、建設業法違反を指摘されれば、将来の入札や受注にも悪影響を及ぼしかねません。
「長年の付き合いだから」「口頭で了承を得ているから」という過信は禁物です。少しでも支払いに不安を感じる案件がある、あるいは施主から不当な減額を要求されている場合は、手遅れになる前に専門家のアドバイスを受けてください。
当事務所では、経験のある弁護士が貴社の現状を伺い、最適な解決策をご提案いたします。貴社の正当な利益を守り、円滑な事業運営を維持するために、まずは一度、お気軽にご連絡ください。